誰かに教えたくなる科学の雑学300 (光文社知恵の森文庫)

本書の著者はＩＴ系を主とする（フリーランスの）ライター（表紙カバー裏面：表２参照）、編者は造事務所、専門家の監修に依ると言うわけではないことに注意する必要がある。「商品の説明」には「地球の中心温度はどうやって測る？宇宙の終わりはどうなる？カミナリはなぜジグザグに落ちる？走るとお腹が痛くなるのはなぜ？フグはなぜ自分の毒で死なない？物理、化学、宇宙から生物まで、科学にまつわる１３４の謎をわかりやすく解き明かす…使える知恵も満載」とある。「満載」か否かはさて措き、概ね収録トピックは先行類書等で指摘されてきた域を出るものではないと思料する。係る系統の書籍はこれまでそれなりの数を読んできたが、記憶の限りでは『身のまわりの科学の法則（中経の文庫）』、『家庭の科学（新潮文庫）』辺りほどのレベルにはなく、他方で『科学の罠 美と快楽と誘惑』ほど、癖が強い訳でもないと思う。軽く読める“科学雑学読物”と捉えた方が良いだろう。以下、幾つかのトピックにつき所見と共に紹介したい。まずセルシウスとファーレンハイト温度について解説するなら（１７～８頁）、ここで“ケルビン”に係る「マイナス何度℃まで冷せるのか？」（２０３～４頁）の“ケルビン”も併せた方が良いように思う。次に「レイリー散乱」と「ミー散乱」の解説があるが、「雲が白いのは、雲を構成している小さな水滴や氷の粒が“太陽の白色光”を散乱するため」（２２頁：“”は筆者付記）とあるが、正確には“小さな水滴や氷の粒がミー散乱の因子となり、可視光が平均して（一部の波長に限定されずに）散乱又は減衰するため白く見える”と言うことになる。このため雲が厚かったりその直下に居るときに灰色又は薄暗い色になるのは、ミー散乱に依る可視光全体の散乱又は減衰が大きくなるためである。アリの社会性（６３～５頁）については『働かないアリに意義がある（中経の文庫）』が実証的で詳しい。他方結構役立つかもしれない？と思うのは「使い切りカイロをとことん使い切るには？」（１１０～１頁）がある。但し私は「使い切りカイロ」を使ったことがないので自己責任で試されたい。「摩周湖」の実態（７１～２頁）、「台風」の厚さ（１２２～４頁）、「同じ誕生日のクラスメート」がいる確率（１６０～１頁）等は、著名なトピックなので結構既知の読者は多いと思う。面白いものでは「出生数」に関する諸説（１６１～４頁）、他のトピックより頁数もやや多めである。「今どきの沢水は怖い！」（１７３～４頁）で「エキノコックス」感染症について言及があるが、「ゴミをあさるカラス」（１９８～２００頁）では感染症の言及がないが、実害（糞害）として（ドバトと同じく）“クリプトコッカス”感染症が挙げられる（詳細は国立感染症研究所公式サイト等参照）。本書ではカラス対策に厚労省の抽象的な「提案」を引用しているが（２００頁）、昨今問題になっているのは電線直下の歩道等がカラスの糞まみれと言う“糞害”である。加えて人獣共通感染症である“クリプトコッカス”真菌を媒介するのはドバトだけでなく、都市型野生動物のカラスでも有りうる（日本鳩対策センター公式サイト等参照）。係る“害鳥”の都市型カラスの駆除が未だに法律で規制されていることに、甚だ疑問を感じざるを得ない。